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最高裁判所第二小法廷 昭和27年(オ)275号 判決

岡山市紺屋町八一番地

上告人

篠岡義明

右訴訟代理人弁護士

森勘七

大阪市北区梅田町四七番地の三

被上告人

有限会社風月堂

右代表者代表取締役

川本玉一

右当事者間の売掛代金請求事件について、大阪高等裁判所が昭和二七年二月二八日言渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告申立があつた。よつて当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人森勘七の上告理由について。

原判決の判示するところによれば、本件調停の趣旨は、当時解散清算中であつた訴外株式会社は被上告人に対し、昭和二五年一一月末日迄にその清算手続を完了して被上告人に対する売掛代金八十一万五百七十七円の債務を支払うことを約しもし右期日までに訴外会社がその支払をしない場合には、上告人は同会社の清算手続の完了すると否とにかかわらず右期日現在における右売掛代金債務の残額についてこれが債務引受の責に任ずるというにあることは明らかである。右原判決の解釈は正当であつて、右調停の趣旨を以て所論のように訴外会社の清算手続の完了しない限り、いつまでも上告人の債務引受の効力は発生しないものと解すべきでないことは明らかである。論旨はひつきよう、右調停の約旨の解釈を争うに過ぎず採用することはできない。

よつて民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)

昭和二七年(オ)第二七五号

上告人 篠岡義明

被上告人 有限会社風月堂

上告代理人弁護士森勘七の上告理由

一、原審判決に於て「被上告会社の申立てた右岡山簡易裁判所の調停事件において、昭和二十五年十一月十日当事者間に、当時解散し清算中であつた双葉商事株式会社は同年同月末日迄に清算手続を完了し、被上告会社に対し、右売掛代金八十一万五百七十七円を支払うべく右期限迄に清算手続を完了し、これが支払を為し得ない場合には上告人は其の未払残額の全部につき債務の引受を為し、その支払の責に任ずることを確認し、その支払方法について更に被上告会社と協議する旨の調停が成立した事実を認める事が出来る」と事実を認定して、これが前提の下に「右双葉商事株式会社は其の清算手続遅延し、昭和二十五年十一月末日迄に清算手続を完了せず、被上告会社に対して何等の支払を為さなかつたので、被上告会社において同年十二月二十五日、内容証明郵便により上告人に対し同年同月三十日迄に右未払金全額の支払を求め、其の支払方法につき直ちに協議方申出でたに拘らず、上告人はこれに応ぜず其の支払方法についての協議が纒まらなかつた事実を認める事が出来るから、上告人の右引受債務八十一万五百七十七円につき昭和二十五年十二月三十一日、右支払方法についての協議不能により、その弁済の期限が到来したものと解するのが相当である」との結論を出して居り、右は前提より結論の間に一大飛躍がある。

二、先ず第一に考えなければならぬ事は、上告人が双葉商事株式会社が被上告人に対して負担する債務を其の清算残額引受の前提条件は先ず清算の完了である。清算完了なくして残額債務の引受は不可能である。

然らば、清算遅延の責任は何人にあるかといえば、無論双葉商事株式会社の清算人内藤昇一である。

昭和二十五年十一月末日迄に清算を完了する事を前記調停に於て約束したものは清算人内藤昇一であつて、上告人は此の責任を負うては居らぬ(新甲第一号証)。清算をすれば幾何かの弁済資力がある筈だ。上告人が清算支払の上、其の不足分には債務を引受けたる理由も此の点多分にある。然るを自己の責任にあらずして、内藤昇一の責任である清算遅延のため上告人は、いやおうなしに負債全額を無条件に引受けたるものと認定せらるゝ根拠何処にありや。上告人は清算終了という条件つきにて本件債務を引受けたるものにて、無条件引受ではない。これ清算上、相当の弁済資源を予期せるためである。然るを清算の責任者内藤昇一の怠慢のため清算が遅延し、何等責任無き上告人が無条件に債務全額を引受けなければならぬ理由はない。

三、上告人の本件債務の引受は条件つきである。即ち、双葉商事株式会社清算の上、被上告人に対し出来得る丈けの支払を為し、其の残額を上告人に於て引受け支払う事である。然るに清算終了せずして、上告人に双葉商事の被上告人に対し負担する債務全額を引受けたるものと認定するは条理に反する。

四、上告人の引受くる債務は清算により支払を為したる残額の債務である。従つて、清算終了なくして債務の引受を為さんとするも、引受の金額を決定すること不可能にして、結局引受不能に帰する外なし。

然るを清算の局に当れる第三者の約束したる清算期間を其の第三者が徒過したる理由の下に、上告人が債務の全額を引受けたるものと見做す事は条理に反する。

五、引受債務の支払方法は上告人、被上告人間に於て、債務の引受額定まりたる上協定すべき約束である。

然るに債務の引受額定まらず、従つて支払方法協定の段階に進んで居らぬに不拘、一片の内容証明郵便により支払方法の協定纒まらず、上告人の被告人に対する債務の弁済期到来せりと断ずるは条理に反するものである。支払方法の協定が成立せぬ場合は、裁判所の判断によりこれを決するの外なし。

これを要するに、右判定は審理不尽、理由不備、条理違反の違法あり破棄を免かれざるものである。

以上

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